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千葉地方裁判所 昭和56年(行ウ)10号 判決

千葉県八千代市高津一二一五番地

原告

岩井米春

千葉市武石町一丁目五二〇番地

被告

千葉西税務署長

田中保

右指定代理人

富山齋

岩井明広

細井淳久

須藤勉

工藤聡

岩原良夫

堀田逸夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五五年四月三〇日付でした原告の昭和五二年分及び昭和五三年分の所得税についての各過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、農業及びアパート経営を業とするいわゆる青色申告者であるが、昭和五二年分及び昭和五三年分(以下「本件各年分」という。)の各所得税について、それぞれ法定申告期限までに別表記載の通り確定申告をし、その後昭和五四年一二月八日別表記載の通り右各年分の所得税の修正申告をした。

2  被告は原告に対し、昭和五五年四月三〇日付で昭和五二年分については一万一七〇〇円の、昭和五三年分については三万〇八〇〇円の各過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各決定」という。)をした。

原告は、本件各決定について、昭和五五年六月一〇日被告に対し異議申立てをしたところ、被告は同年九月一〇日付で棄却の異議決定をしたので、原告はさらに同年一〇月七日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、昭和五六年四月一〇日付で請求棄却の審査裁決がなされた。

3  ところで、原告が本件各確定申告をするにあたり、不動産所得の金額を過少なものにしたことについては、次のとおり正当な理由があり、国税通則法六五条二項を適用すべきである。

(一)(1) 原告は、昭和五二年分の確定申告については、昭和五三年二月二四日千葉西税務署に行き山本令三調査官に申告相談をし、同調査官に租税特別措置法(以下「法」という。)三七条を適用して譲渡所得の計算をしてもらいかつ同年分の確定申告書を作成してもらい確定申告をした。

(2) また、原告は、昭和五三年分の確定申告については、昭和五四年二月二七日千葉西税務署に行き、宮田義雄事務官に申告相談をし、右(1)と同様に同事務官に譲渡所得の計算及び確定申告書の作成をしてもらい、確定申告をした。

(二)(1) ところで、原告は、法三七条を適用した場合には法三七条の三の規定も適用され、買換資産の取得価額は圧縮されるということは全く知らずまた前記納税相談の際にも山本調査官及び宮田事務官からも右規定の説明は全く受けなかった。

(2) そこで、原告は不動産所得について必要経費に算入すべき減価償却費の計算の基礎となる買換資産の取得価額について法三七条の三、一項の規定を適用して計算すべきところを誤って同項を適用しないで計算したものである。

(三) このように、原告は千葉税務署職員の指導に従い申告したにもかかわらず、後日これを修正し加算税を賦課することは納税者の信頼を裏切るものであって禁反言の原則に反するものである。

(四) 本件においては、原告は昭和五二年分と昭和五三年分の各確定申告において同じ誤りを繰り返したのであるが、これは原告が昭和五二年分の確定申告をした後、その申告に係る買換資産の取得価額について千葉西税務署内において、すみやかに関係部門間で連絡がなされ、原告に対し適切な指導がなされるべきであり、そうすれば原告は少なくとも昭和五三年分の確定申告においては誤りを避けることができたはずである。従って、少くとも昭和五三年分の確定申告の誤りについては、千葉西税務署内の事務連絡の不手際によって生じたものであるから、過少申告加算税を賦課すべきではない。

4  以上の通り、本件各決定は、いずれも違法であるので、これらを取り消すことを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1及び2は認める。

2  同3冒頭の主張は争う。

(一)(1) 同3(一)(1)のうち、山本調査官が確定申告書を作成したとの点及びその日時については否認し、その余は認める。右日時は、昭和五三年二月二三日である。

(2) 同3(一)(2)のうち、宮田事務官が確定申告書を作成したとの点は否認するが、その余は認める。

(二)(1) 同3(二)(1)のうち、山本調査官及び宮田事務官が原告主張の如き説明をしなかったことは認めるが、その余は知らない。

(2) 同3(二)(2)は認める。

(三) 同3(三)の主張は争う。本件各確定申告における誤りは、いずれも山本調査官らが相談も質問も受けなかった事項に関するものであるから、本件各確定申告は山本調査官らの指導に従い申告したということはできず、従って原告の右主張はその前提を欠くものである。

(四) 同3(四)の主張は争う。

3  被告の主張

本件においては、次のとおり国税通則法六五条二項に所定の「正当な理由」に該当する事実はない。

(一)(1) 昭和五二年分の確定申告については、原告は昭和五三年二月二三日千葉西税務署に出頭して山本調査官に対し、原告所有土地を譲渡した際の売買契約書、代金領収書、登記簿謄本及び「譲渡内容についてのお尋ね」(乙第一号証)等を提示して、原告の昭和五二年分の譲渡所得の金額の計算について、法三七条の規定の適用を受けられるか否かということを相談したので、山本調査官は、原告が提示した書類を検討したうえ、原告に対し右規定による法三一条の適用を受ける旨回答し、右書類に基づいて計算した分離長期譲渡所得の金額を教示した。

昭和五三年分の確定申告については、原告は、昭和五四年二月二七日千葉西税務署に出頭して宮田事務官に対し、原告所有土地を譲渡した際の売買契約書、代金領収書、登記簿謄本及び「譲渡内容についてのお尋ね」(乙第三号証)等を提示して、原告の昭和五三年分の譲渡所得の計算に当り、法三七条の規定の適用を受けられるか否かということを相談したので、宮田事務官は、原告が提示した書類を検討したところ、一部については右規定の適用を受けて譲渡がなかったものとされ、その余については、右規定による法三二条の適用を受けることになるので、宮田事務官は、原告が提示した書類を検討したところ、一部については右規定の適用を受けて譲渡がなかったものとされ、その余については、右規定による法三二条の適用を受けることになるので、原告に対しその旨回答し、右書類に基づいて計算した分離譲渡所得の金額を教示した。

(2) 以上のとおり、山本調査官らは、いずれも原告から相談を受けた事項即ち原告の譲渡所得に係る法三七条の適用の可否については適正に指導しており、原告の不動産所得に係る法三七条の三の適用の可否については何ら相談も質問も受けていないのであるから、本件各確定申告における誤りは、専ら原告の過失に起因するものというべきである。

(二) ところで、国税通則法六五条二項に所定の「正当な理由」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後に改変されたことに伴って修正申告をなし、又は更正を受けた場合、或いは災害又は盗難に関して申告当時に公表されていた見解が、その後に改変されたことに伴って修正申告をなし、又は更正を受けた場合、或いは災害又は盗難等に関して申告当時には損失とすることを相当としたものが、その後に予期しなかった保険金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けたために修正申告をなし、又は更正を受けた場合等、当該申告の当時には適法と見られたが、その後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずして当該申告額が過少となった場合の如く当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが、不当もしくは酷になる場合を指称するものであって、納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合は、これに該当しないというべきであるところ、本件各確定申告は、いずれも右の真にやむを得ない理由によるものということはできない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第二七号証(但し、第七号証の4の欄は被告において作成したものである。)

2  証人山本令三及び同宮田義雄の各証言並びに原告本人尋問の結果

3  乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一ないし第六号証(但し、第二号証のうち表〈8〉欄及び裏欄下の特例適用条文欄並びに第四号証のうち表〈30〉欄及び裏〈15〉欄下の特例適用条文欄はいずれも被告において記載したものである。)

2  証人山本令三及び同宮田義雄の各証言

3  甲第一、二、九、一〇号証の成立は認める。第四、六、八号証の官公署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。第七号証の官公署作成部分及び4の欄の部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  請求原因1及び2は当事者間に争いがない。

二  そこで、次に国税通則法六五条二項の適用の可否について検討する。

1  成立に争いのない甲第一号証、乙第一ないし第六号証、官公署作成部分(第七号証については4の欄も含む)の成立は当事者間に争いがなく、その余の部分については原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四、第七号証、官公署作成部分の成立は当事者間に争いがなくその余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証、第一一号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五、第一二号証、証人山本令三及び同宮田義雄の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば次の事実が認められ(一部当事者間に争いのない事実も含む。)、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告は、昭和五三年一月ころ被告から「譲渡所得の申告についての御案内」及び「申告相談日時の御案内」と題する文書の送付を受けたので、これに従い同年二月二三日千葉西税務署に行き、山本令三調査官に面接して、原告が昭和五二年に譲渡した農地の譲渡所得について、その買換資産を取得したことにより法三七条の適用を受け得るか否かまた適用を受ける場合の譲渡所得の金額の算定について説明を求めたうえ、同調査官に昭和五二年分の所得税の確定申告書の記載事項の一部について代筆を依頼した。山本調査官は、原告の右譲渡所得については、法三七条の適用を受け得る旨を説明し、さらに原告が持参した資料を基礎に同条を適用して譲渡所得の金額の計算をし、右確定申告書の記載事項の一部について代筆をした。原告は、同月二四日右確定申告書を被告に提出した。

(二)  原告は、昭和五四年一月ころ被告から「譲渡所得の申告についての御案内」及び「申告相談日の御案内」と題する文書の送付を受けたので、これに従い同年二七日千葉西税務署に行き宮田義雄事務官に面接して、原告が昭和五三年に譲渡した農地の譲渡所得について、その買換資産を取得したことにより法三七条の適用を受け得るか否かまた適用を受ける場合の譲渡所得の金額の算定について説明を求めたうえ、同事務官に昭和五三年分の所得税の確定申告書の記載事項の一部について代筆を依頼した。宮田事務官は、原告の農地の譲渡所得については、法三七条の適用を受け得る旨を説明し、さらに原告が持参した資料を基礎に同規定を適用して長期譲渡所得の金額を零円と算定しまた原告の自用の宅地の譲渡所得についても原告が持参した資料によって短期譲渡所得の金額を算定し、右確定申告書の記載事項の一部について代筆をした。原告は、同月二八日右確定申告書を被告に提出した。

(三)  その後、被告において、本件各確定申告の調査をしたところ、原告は本件各年分の譲渡所得の金額の計算について法三七条の適用を受けた者であるにもかかわらず、各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき減価償却費の額の計算の基礎となる買換資産の取得価額について法三七条の三、一項を適用しないで計算しており、当該所得の金額、総所得金額及び納付すべき税額にそれぞれ誤りのあることが判明した。そこで、遠藤事務官が原告に対しその旨説明したところ、原告は、昭和五四年一二月八日本件各年分の修正申告をした。

2  証人山本令三及び同宮田義雄の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件各納税相談をした際、山本調査官及び宮田事務官に対し法三七条の三の適用を受けるか否かについては何ら質問をせずまた右両名も右規定の適用については何らの説明もしなかったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  以上の認定事実をもとに判断するに、原告の本件各年分の各確定申告がいずれも過少申告となったけれども、本件各納税相談においては、山本調査官も宮田事務官も原告からの相談内容については適切な回答をしており、原告から相談のなかった点についてまで指導しなかったからといってこれを不適切なものということはできない。

また、原告が納税相談において何ら指導・助言を求めなかった点についての過誤に基づき被告が後日修正申告を求め、あわせて過少申告加算税の賦課決定処分をしても禁反言の原則に反するものということはできない。

次に、原告の請求原因3(四)の主張については、原告は原告が昭和五二年分の確定申告をした後その申告をした後その申告に係る買換資産の取得価額について千葉西税務署内において、すみやかに関係部門間で連絡がなされ、原告に対し適切な指導がなされるべきであると主張するが、このような義務を認めるべき根拠はないから、右(四)の主張は、その前提を欠き採用できない。

以上の通りであるから、原告が過少な申告をしたことについて正当な理由はないものというべきであって、国税通則法六五条二項を適用することはできないから、本件各過少申告加算税賦課決定処分が違法であるとはいえない。

三  よって、原告の本訴各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原幾馬 裁判官 小見山進 裁判官塚原朋一は、転補につき、署名抽印することができない。裁判長裁判官 篠原幾馬)

(別表)

〈省略〉

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